災害時における台東区の野宿者への対応

台風19号対策において、台東区がホームレスの人々の自主避難所への受け入れを断ると決定した件について

 

私たち一般社団法人「あじいる」は、本日にも東京上空を通過し甚大な被害が懸念されている台風19号に際し、野宿の仲間たちの身の安全確保を呼びかけるため、上野駅周辺に出かけました。

 

不要不急の外出は控えるようにとテレビやラジオが連呼する、都市を襲う未曽有の台風を迎え、外で過ごさなければならない仲間のことを、私たちはみな心配していました。

 

台東区のホームページを見てみますと、台東区の災害対策本部のサイトには、

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自主避難所の開設について:雨風が強まってからの外出は大変危険です。

不要な外出は避け、原則として自宅で避難し、窓から離れた場所で過ごすなど、身を守る行動をとってください。

自宅での避難が不安な方のために、以下のとおり自主避難所を開設します。

自主避難所へ避難する方は、食料などの身の回りの物を持参してください。なお、水と毛布は区で準備します。

自主避難場所

(1) 台東一丁目区民館 台東1丁目25番5号

(2) 馬道区民館 浅草4丁目48番1号

(3) 谷中小学校 谷中2丁目9番16号

(4) 忍岡小学校 池之端2丁目1番22号

避難を希望される方は、風雨が強くなる前に避難してください。

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とあります。

 

 

仲間たちを回る前に、忍岡小学校に様子を見に行きました。

台東区の職員の方が四人、待機されていました。

上野駅から一番近い避難所であることを確認し、上野駅周辺と文化会館周辺に向かいました。

 

乾パンやタオルと一緒に、忍岡小学校の場所を示す地図のチラシを配り、避難を呼びかけました。

みなさんのところを回り、あと数人というときに、

一人の男性が「その小学校に、行ったけど、自分は●●に住民票があるから断られた」と消沈して教えてくださいました。

 

告知には、住民票についての情報など書かれていませんでした。

「身の安全の確保を求めて避難所に行ったのに断られるとは!」…信じられない思いでしたが、その方は仕方なさそうに「ダメだって…」とあきらめたような微笑を浮かべていらっしゃいました。

 

私たちは、確かめるために、もう一度、忍岡小学校に戻りました。

現場の区の職員の方々は、住所の無い人は利用させないようにという命令を受けていました。

 

そこで、その場で台東区長が本部長となる台東区災害対策本部に問い合わせをしました。

台東区で野宿をしている人々は避難所を利用できないという規則が本当にあるのか尋ねたところ、

「台東区として、ホームレスの避難所利用は断るという決定がなされている」と、明確な返答でした。

 

 

すぐに、チラシを配ったエリアに戻り、事情を説明して皆さんに謝りました。

中には、「あのあと、すぐに小学校に行ってみたけど、断られた」とおっしゃった方もいました。

ずぶぬれに濡れて、私たちの謝罪に「いいよ。ありがとう」と片手をあげて答えていたその姿が脳裏に焼き付いています。

 

その後、再度台東区災害対策本部に問い合わせたところ、

今後避難準備・避難勧告が出る可能性があるが、

ホームレス(住所不定者)については、避難所は利用できないことを対策本部で決定していると言われました。

 

事実上、台東区の災害対策は、ホームレスを排除していることになります。

これだけ危険だ、人命を第一に、と叫ばれている大災害を前にして、

ホームレスのみんなの命は「尊い人命」に数えられていないのですか?

 

 

ホームレスで、住民票はないけれど、私たちと同じ場所に住む、上野の住人なのではないでしょうか?

 

私たちは、台東区の信じられない決定に怒りを抑えかねていたけれど、

片道30分以上も歩いて自主避難所の小学校に行って、断られてまた駅に帰ってこられた仲間は、

私たちや行政に非難や嫌味をいうことはありませんでした。

 

こんなひどいお天気、ぐしょぬれになって気持ち悪く、

今夜どんな危険に合うかも分からない不安の中で、

住民の安全を守るという避難所で受け入れてもらえなかった、その思いを、胸の内にぐっと仕舞いこんで、

またいつものように静かに座っています。

 

災害の時にこそ助け合い、ひとりの命も失われないようにしなければならず、

しかも、生命はみな平等なはずです。

 

台東区のこの対応は、命を差別しようとするものと思われてもしかたありません。

私たちが体験した、この出来事を、多くの人と共有したいと思い、ご報告いたしました。

今晩、仲間の命が無事であることを祈りつつ…

 

一般社団法人あじいる代表    

今川篤子